労災とは?
労災とは正式名称は「労働者災害」となっており労働者が業務中及び通勤中の事故を指します。
労働者災害の場合、原則としては企業側が責任を負うことになりますが各企業単独で補償しようとするとリスクが読めず健全な経営ができなくなるリスクもあるため、労働者を雇用している企業全体で補償していこうと保険制度としたものが「労災保険(正式名称:労働者災害補償保険)」と呼ばれています。
労働者災害補償保険は労働者災害補償保険法で定められています。
労災認定の基準
労災認定の基準は大きく分けて「業務遂行性」「業務起因性」の2点に該当するかどうかで判断されます。
- 労災認定基準①「業務遂行性」
- 労災認定基準②「業務起因性」
「業務遂行性」「業務起因性」のそれぞれを確認していきましょう。
労災認定基準①「業務遂行性」
労災認定基準の1つ「業務遂行性」とは業務を遂行している途中で事故が起こったかどうかを判断します。
実際に何か作業をしていて、近くにあった木材が転倒してきたことで負傷した場合などは「業務遂行性」があると判断されます。また作業をしていなくても、使用者の指揮命令によって待機していた場合などに、近くにあった木材が転倒してきたことで負傷した場合なども「業務遂行性」がありと判断されます。
労災認定基準②「業務起因性」
労災認定基準の1つ「業務起因性」とは事業主の支配下での業務に起因しているかどうかを判断します。
業務と傷負傷との間に一定の因果関係があることを業務起因性がありと判断されますので、例えば業務中にサボっていていたずらをしたことによって負傷してしまった場合は、一般的には「業務起因性」がないと判断されます。
労災認定「会社にとっての6つのデメリット」
会社が労災認定を受けた場合の大きなデメリットは「企業イメージダウン」「保険料の増加」「損害賠償請求」「書類送検・裁判」「労働基準監督署の臨検監督」「入札の指名停止処分」の6つがあげられます。
- 企業イメージダウン
- 保険料の増加
- 損害賠償請求
- 書類送検・裁判
- 労働基準監督署の臨検監督
- 入札の指名停止処分
「労災認定のデメリット」企業イメージダウン
労災認定を受けると企業イメージダウンというデメリットがあげられます。
何度も労災が起きていたり、重大な労災が発生した会社は、労働者や求職者からは「ブラック企業」というイメージになり、労働者や求職者だけではなく、安全や健康に関連する労災事故は、取引先にとっても、業界的にとってもブランドイメージは下がります。
SNSやインターネットの口コミにより拡散力も強い現代社会。企業イメージのダウンは、離職率の増加や採用力低下による人員減少、業界や取引先からの信頼の低下による売上減少など、デメリットが非常に強いと言えます。
「労災認定のデメリット」保険料の増加
労災認定を受けると保険料の増加というデメリットがあげられます。
労災保険の保険料は過去の労災認定の頻度に応じて保険料率が上がったり・下がったりします。過去3年間の労災の数が平均よりも多いと保険料率は上がり保険料は上がります。逆に労災の数が平均よりも少ないと保険料率は下がり保険料は上がります。このような決定方法を「メリット制」といいます。
保険料率が上がり、保険料が上がると会社としての負担が増えることになりますので労災認定となる労災事故を減らして負担が減るようにしていきましょう。
メリット制とは
メリット制とは保険料の決定方法の1つです。
労災保険料は、労災保険料率が高低に応じて変動しますが、労災保険料率は災害のリスクに応じて、事業の種類ごとに定められています。ただ同じ事業の種類だとしても、作業工程・設備・作業環境などの各企業の災害防止の企業努力によって、実際の企業ごとの災害発生率には差が生じています。
労災保険では、事業主の保険料負担の公平性の確保と、労働災害防止努力の一層の促進を目的として、その事業場の労働災害の数に応じて、一定の範囲内(原則は±40%の範囲)で労災保険率または労災保険料額を増減させる制度を設けていてこの制度をメリット制と呼んでいます。(メリット制は、継続事業・一括有期事業・単独有期事業で異なります。)
「労災認定のデメリット」損害賠償請求
労災認定を受けると害賠償請求の発生リスクというデメリットがあげられます。
労災認定をうけ、労災から労働者に対して補償給付があったとしても、労災について会社側に「安全配慮義務違反」「使用者責任」などが認められる場合に、労災保険からの補償給付とは別に、会社は損害賠償責任を負担を求められる場合があります。通勤中の事故による労災のように会社側の責任がない場合は、会社の安全配慮義務違反が認められませんので賠償責任を負わず損害賠償請求に応じる必要はありません。
安全配慮義務違反とは
労働契約法第5条に定められている、企業が労働者に対して負う責任の1つで、「労働者が安全と健康を確保しつつ、就業するために必要な配慮をする義務」のことを指しています。
労働契約法第5条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
e-Gov「労働契約法」
「労災認定のデメリット」書類送検・裁判

労災認定を受けると書類送検・裁判の発生リスクというデメリットがあげられます。
労働基準監督署の調査や臨検監督によって、事業主に重大な過失が指摘された場合、事業主は書類送検される可能性があります。書類送検とは身柄が拘束される逮捕とは違い、身柄は拘束されずに書類が警察から検察へ送付される事を指し、そこから裁判へと発展する可能性が出てきます。書類送検だけではなく行政処分による営業停止などもありえますので労災認定が起きないよう安全・健康に十分に気をつけて事業を行うようにしてください。
行政処分による営業停止の事例
2020年05月18日の都市整備局による報道発表資料によると次のような行政処分による営業停止もあります。
項目 | 内容 |
---|---|
商号 | 非公開 |
代表者 | 非公開 |
所在地 | 東京都新宿区所在の建設業者 |
処分年月日 | 令和2年5月18日 |
根拠法令 | 建設業法第28条第3項に基づく営業の停止命令 |
停止期間 | 令和2年6月1日(月)~令和2年6月3日(水)の3日間 |
停止対象の建設業の種類 | 建設業の営業の全部 |
処分の理由 | 平成29年1月28日、東京都調布市内の基礎撤去工事において、当該業者の現場代理人は、労働者に深さ約2.9メートルの掘削溝内で地ならし作業を行わせるにあたり、同箇所は地山の崩壊により労働者に危険を及ぼすおそれがあり、地山に係る形状、地質等の状態に応じた堅固な土止め支保工の構造としなければならないのにこれを怠り、設備による危険を防止するため必要な措置を講じていなかった。この結果、労働者1名が死亡する事故が発生した。以上の内容が労働安全衛生法第21条第1項及び労働安全衛生規則第361条第1項に違反し、当該業者及び同社の現場代理人が罰金刑に処せられた。また同社の現場代理人は当事故により業務上過失致死罪の刑も確定している。このことが、建設業法第28条第1項3号及び同条第3項に該当する。 |
「労災認定のデメリット」労働基準監督署の臨検監督
労災認定を受けると労働基準監督署の臨検監督発生リスクというデメリットがあげられます。
労災が起きた場合に労働基準監督署からの調査が入ることは当然ですが、現在は労災が起きていない事業主に対しても労働基準監督署は抜き打ちで調査をしています。この労働基準監督署の調査のことを「臨検監督」と呼びます。
臨検監督の対象となる要件は明確に定められていませんが、労災認定が多い会社の場合、臨検監督の対象になりやすくなります。臨検監督で違法性が確認されてしまった場合のリスクもそうですが、労働基準監督官が労働関係帳簿などの書類の確認、経営者や現場にいる従業員へのヒアリングなどを行うなど、違法性がなかったとしても会社としては労力と時間が要されます。
このようなリスクや無駄をなくしていく為にも、労災認定をなくす為に安全や健康に配慮して労災事故そのものをなくしていきましょう。
「労災認定のデメリット」入札の指名停止処分

労災認定を受けると労入札の指名停止処分というデメリットがあげられます。
国または自治体の入札に参加している会社が重大な労災が起こした場合、入札の指名停止処分となる可能性があります。入札には「指名停止措置要領」というものが定められていて、その「指名停止措置要領」で定められた要件を満たす労災を起こしてしまうと、定められた期間は指名停止処分を受けてしまうことになります。
入札の指名停止処分の例
項目 | 内容 |
---|---|
指名停止措置業者名 | ①株式会社ソニック ②有限会社沖海工 |
業者の住所 | ①東京都西多摩郡瑞穂町箱根ヶ崎東松原10-22 ②沖縄県那覇市長田2-33-49 |
指名停止措置期間 | ①平成30年5月25日〜平成30年6月7日(2週間) ②平成30年5月25日〜平成30年6月7日(2週間) |
指名停止措置の範囲 | 九州地方整備局管内 |
事実概要 | 本件は、当局発注の「海象観測装置定期点検・保守」において、平成28年12月20日正午頃、潜水士が水深55mにおける潜水作業を終了し、浮上を開始した。しかし、水深25m付近で水中通話装置から異変を伝える応答があったため、被災者を揚収したところ心肺停止状態であり、病院へ緊急搬送したものの死亡が確認された。そのため、労働基準監督署から是正勧告を受けたものである。 |
指名停止措置理由 | 株式会社ソニックが、当局発注の「海象観測装置定期点検・保守」において、工事関係者事故を生じさせたため、労働基準監督署より是正勧告を受けたことは、「工事請負契約に係る指名停止等の措置要領」及び「地方整備局(港湾空港関係)所掌の工事請負契約に係る指名停止等の措置要領」(以下「指名停止措置要領」という。)別表第1第7号(下記参照)に該当することによる。 また、有限会社沖海工については、下請負人として「指名停止措置要領」第2-1(※)の規定に該当することから、併せて指名停止を行う。※「指名停止措置要領」第2-1 局長等は、第1条第1項の規定により指名停止を行う場合において、当該指名停止について責を負うべき有資格者である下請負人があることが明らかになったときは、当該下請負人について、元請負人の指名停止の期間の範囲内で情状に応じて期間を定め、指名停止を併せ行うものとする。 |
<指名停止措置要領別表第1>
措置要件 | 期間 |
---|---|
(安全管理措置の不適切により生じた工事関係者事故) 7 地方整備局発注工事の施工に当たり、安全管理の措置が不適切であったため、工事関係者に死亡者又は負傷者を生じさせたと認められるとき。 | 当該認定をした日から 2週間以上4ヶ月以内 |
労災認定されるまでの期間はどれくらい?
労災認定されるまでの期間は労災保険の給付内容によって異なりますが概ね1ヶ月〜4ヶ月程度と言われています。
- 負傷による労災…労災請求書などが受理されてから給付決定となるまでの期間は「1ヶ月~3ヶ月程度」
- 死亡による労災…労災請求書などが受理されてから給付決定までの期間は「4ヶ月程度」
参考:厚生労働省ホームページ
まとめ:労災認定「会社にとっての6つのデメリット」損害賠償請求・労働基準監督署の臨検・書類送検・裁判・保険料率増加・指名停止処分などを解説。
今回の記事では労災認定「会社にとっての6つのデメリット」について解説しました。
労災認定を受けてしまうと会社にとっては「損害賠償請求」「労働基準監督署の臨検」「書類送検・裁判」「保険料率増加」「指名停止処分」などのデメリットがあります。
逆に労働災害が少ないとメリット制と言われる制度によって、保険料が安くなるというメリットもあります。
ぜひ、労働する上での安全と衛生を遵守して、労働者が働きやすい環境を作っていきましょう。
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